本年は受給期間の最終年度にあたり、「モダン・ポストモダン」「ポピュラー(民衆的)」「日常性」「美術館」の4概念について、研究をとりまとめ原稿化した。「モダン」すなわち近代とはルネサンス以降の時期に確立した神抜き、人間中心の文明を「新しい」ものとする人びとの自覚を表す。具体的には民主政治と人権、非永遠性と進歩、歴史的相対性などがその中核をなす。新旧論争を先駆的兆候とし、18~19世紀の変わり目頃その意識は定着する。他方「ポストモダン」は1980年代頃現れてきた変化の意識で、個性=独創性の価値観の後退、文化の階層的区別の希薄化、画一化の進行、文化の商品化などを特徴とする。次に「民衆的」文化は、それとの差別化が近代の藝術概念を成立させたもとである。否定されつつも民衆性=民族性への意識も覚醒し、ロマン主義の1契機となった。大衆文化の伸長に対する危機意識(ニーチェ、オルテガ)にも拘わらず、科学技術の成果としての複製技術(ベンヤミン)は藝術の大衆化を圧倒的に現実化し、その積極的な価値づけの理論も現れてきている。第三の「日常性」で、文化の背景にすぎなかったものが、20世紀になると日常性こそが真の現実との見方が現れてくる。シュルレアリスム、ベンヤミン、R・バルト、ルフェーブルらにおいて顕著な思想であり、昨今では「日常性の美学」が衣食住の美的な側面についての研究を展開している。最後に「美術館」は有力者のbootyに由来するコレクションを核として、フランス革命の時期に藝術の場所として各地に生まれたものである。その指導原理となったのは、新しい政治理念としての民族主義であり、かつ、歴史意識にもとづく展示法が開拓された。その自律的藝術観は近代美学の正統となったが、それに対する批判は古くからあり、近年の「略奪美術品」返還要求運動は、美術館の原初の在り方の問い直しでもある。
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