研究協力者2名を、パリ(フランス国立図書館)、シチリア(聖救世主修道院)、テサロニキ(総主教座附属教父学研究所)、アテネ(ギリシア国立図書館)に派遣して、レクショナリー写本の聖者暦データを記録した。これらのデータをデータベース化するとともに、これまで収集した100ほどの写本データと合わせて、写本のリセンションの検討に入った。 新しい収穫として、これまで調査の対象とはしてこなかった11世紀以降の四福音書(テトラエヴァンゲリオン)写本の重要性が浮かび上がった。かなりの頻度で、四福音書写本の巻末に、付録的に聖者暦が配されている。これは11世紀以降、四福音書写本が欄外の指示によってレクショナリーとしても用いられたことの結果と考えている。したがって今後は年記のある四福音書写本を聖者暦データに加えることによって、リセンションの確定がより精度をもってできる見込みである。 一定数の工房データが揃った例として、コンスタンティノポリスのオディゴンHodegon修道院を挙げる。これは14、15世紀のデータが中心であるが、Parma、Palatina Cod.gr.5の四福音書データは、11世紀のオディゴンのものである可能性が高い。これ以外の工房としては、ストゥディオスStoudios、ペトラPetraの両修道院の暦を確立できないか検討中である。 Athens、Cod.162は挿絵の様式から、11世紀後半の首都制作と考えられるが、暦はキプロス的な特徴を示す。挿絵と暦の両面からアプローチすることによって、写本制作の動機が解明されるかもしれない。
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