本研究最終年度であった平成22年度は、前年度に引き続き、これまでの調査等によって明らかになった事柄(研究成果)の公開に力を入れた。これまで主に、日本の19世紀の版画のうち、木版画を重点的に調べ、かつこれらに関する研究成果を公表してきたが、22年度は、木版画を主軸に据えつつもこれをとりまく複製手段に目を向けた。 明治初期の日本の複製媒体としては、それまでの主流である木版画に加えて、銅版画や石版画、そして写真が挙げられる(但し当該時期の写真は、必ずしも大量複製には耐えない媒体であり、ゆえに写真を複製するための手段としても、石版画が用いられている)。そしてこれらの媒体は、たとえば手段の有用性を示すために、あるいはその技術の高さ、事物の再現性の高さを強調するために、しばしば、同時期の木版画(浮世絵版画)と共通するモティーフを敢えて選んでいた。共有したモティーフはたとえば風景であり、人物像であり、また役者であったりし、これらは旧来の浮世絵版画が得意としてきた分野であった。では描かれ方はどのように違うのか、あるいは共通するのかをも含め、「技術とモティーフ-明治初年の主に版画における風景表現をめぐって」(『GENESIS(京都造形芸術大学紀要)』14号、2010年)で明らかにした。
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