研究概要 |
平成19年11月および平成20年2月の二回にわたってイタリアでドニキーノ作品の調査を行った。 特に,本年度は,ローマ,サン・グレゴリオ聖堂に付属するサン・タンドレア礼拝堂におけるドメニキーノ絵画(聖アンデレのむち打ち)に焦点を当て,この作品の制作経緯と,反対側壁面に描かれたグイド・レニの絵画(十字架を拝む聖アンデレ)との関係を考察した。 この調査,研究において,ドメニキーノとグイド・レニの二つの壁画は完成当初から比較して論じられ,それぞれの画家の特質の違いが当時代の著述家たちによって指摘つれ,さまざまな意見のあることが確認された。 グイド・レニについては,人物像の「優美さ」において優れているとされる一方,ドメニキーノについては,物語を深く読み込んだ的確な状况表現,物語内容に適った人物の感情表現が,高く評価されたのだが,こうした両者についての評価は,その後の両画家の活動をある意味で「規定した」のではないかと考え,その裏付け調査を当時代の文献を読み解くことから行っている途中である。 この,「サン・タンドレア礼拝堂」の二つの壁画という具体的な例を取り上げて検証することによって,17世紀のローマにおいて1)キリスト教物語図像にどのような内容を盛り込むことが求められたか,2)そうした要請に対して個々の画家はどのように対応したか,3)当時代の人々は完成したキリスト教画像をどのように評価し,鑑賞したのか,の3つの側画についてより深い知見を得ることが可能になると考えられる。 これはもちろん,17世紀のローマにおける画家と社会の関係を総合的に理解するための一歩である。
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