ドメニキーノの作品における「画中世界と鑑賞者を繋ぐ存在」に着目して、鑑賞の契機としての「想像力」を、この画家がどのように喚起しようとしたのか、また、想定される鑑賞者(礼拝堂など公共の場であれば一般大衆だし、貴族等の注文作品であれば、より豊かな知識が期待される)をどのように想定して、画中世界と鑑賞者を結びつけようとしたのか、幅広く考察し、「想像力」を巡るドメニキーノの画家としての「戦略」をあきらかにするのが、本科研研究最終年度の目標だった。これに関連して、本年は、17世紀に著述されたドメニキーノの重要な伝記を含む、マルヴァジーアの『ボローニャ画家列伝』に焦点を当て、鑑賞者としてのこの著作家絵画観を考察した。特に対抗宗教改革が一段落した17世紀後半に活動したマルヴァジーアが、16世紀末から17世紀初頭に研究が進み、ドメニキーノなどローマで活躍した古典主義的な画家たちにも少なからざる影響を与えた、初期キリスト教美術を「鑑賞者」としてどのように受容していたのか、同時代のフイレンツェで活躍した著述家バルディヌッチの立場と比較することによって明らかにした。マルヴァジーアは、初期キリスト教美術を、独自の価値を持つ美術として評価するにはいたっていなかったものの、時代や地域によって美術に違いがあるという、17世紀としては新しい美術観を持っていたことが確認された。これは既に論文としてまとめ、6月刊行の福岡大学人文論叢に掲載される。また、この著書におけるドメニキーノおよびカラッチ一家の美術に関する見解も考察し、前者に対してはグイド・レニを、後者の中ではルドヴィーコ・カラッチを高く評価するマルヴァジーアの見解の特質を、同様に、受容者の立場から考察した。この成果は次号の人文論叢に掲載の予定である。
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