近代工芸の展開にとって極めて重要な役割を果たしたものに博覧会がある。博覧会は開催年が明らかであるところから、その出品作品は年代的な基準資料となることになる。博覧会には海外で開催された万国博覧会、その国内版である内国勧業博覧会などがあるが、本研究では内国勧業博覧会に焦点を定め、出品作品に関するデータを収集し、近代工芸の基準資料の作成を目的とした。内国勧業博覧会は5回行なわれており、その中でも明治10年(1877)の第1回、明治14年(1881)の第2回について、出品作品についての情報を集めた。 第一年度、第二年度という前期の内国勧業博覧会は、江戸時代以来の工芸から近代の工芸への転換期にあたり、国家としての工芸育成政策ともあわさって工芸の展開にとって大きな意味を持っている。これらの博覧会に出品された作品を目録からデータ化し、国立博物館や地方の博物館などで当時購入され、現在に伝えられている作品について実地に調査を行なった。さらに、各地の研究者との情報交換によって、目録によって名称のみ残る作品の実態についても情報を集めた。 博覧会に際しては、博覧会事務局によって詳細な報告書が刊行されている。さらに第1回、第2回の内国勧業博覧会には出品作品と会場を撮影した写真帖も作成されている。それらから、作品を抜き出して、作者・作品名を結びつけた画像データベースを作成した。 同時に、当該博覧会の開催にあわせて刊行された正式報告書、それとともに民間で刊行された関係文献から、出品作品の実像に迫るための情報を収集した。 また、当時の工芸作品には、現在の工業に通ずる産業的な意味合いの強いものと、美術的な作品としての意味合いの強いものとがあり、産業的な意味合いの強いものについては、当時の帝室博物館など、産業戦略としての収集が行われた館での所蔵品調査によって、従来の美術史的な研究で明らかになってこなかった部分についても光を当てている。
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