研究代表者らが中心となって近年開発した可搬型の蛍光X線分析装置などを用いて、以下に示す絵画の彩色材料を調査した。 (1)「春日権現験記絵巻」の調査 宮内庁三の丸尚蔵館に所蔵される全20巻から成る鎌倉時代を代表する絵巻物である。修復が行われるのに合わせて、第十九巻の表・裏面の彩色調査を実施した。修理の際にしか見ることのできない裏彩色の表現やその色料の使い方などについて、多くの情報を得ることができた。 (2)国宝「聖徳太子及び天台高僧像」の調査 平安時代の仏画の代表作、一乗寺所蔵国宝「聖徳太子及び天台高僧像」の彩色材料を調査した。全十幅のうち、四幅についての調査を実施した。幅による彩色材料の相違、あるいは補筆部分の材料の違いなどを検討した。今後全幅を調査することで、本作品の彩色材料が明らかになるものと期待される。 (3)絵画に使われる金銀材料の基礎的調査 日本絵画には古くから金箔・銀箔あるいは金泥・銀泥などの高精度分析を目的に、金箔・銀箔表面に漆や染料を塗布した試料について蛍光X線分析を実施し、箔の厚みや色調とX線強度との関係を検討した。
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