以下に示す彩色文化財に関する知見を得るとともに、2ヵ年にわたる調査結果のまとめを行った。 (1)「春日権現験記絵巻」の調査 宮内庁三の丸尚蔵館に所蔵される全20巻から成る鎌倉時代を代表する絵巻物である。第十六巻裏面および第十一巻表面の彩色調査を実施した。修理の際にしか見ることのできない裏彩色の表現やその色料の使い方などについて、多くの情報を得ることができた。 (2)「春日権現験記絵披見台」の調査 春日権現験記絵を披き見るための台として作られたと伝えられる披見台(春日大社所蔵)を奈良国立博物館で調査した。金銀泥による風景描写が金、銀それぞれ2種類の材料により行われ、さらにそれらが重ね塗りされることによって複雑な色調を描き出していることが明らかになった。 (3)「法隆寺釈迦三尊台座(国宝)」の調査 法隆寺釈迦三尊台座(国宝)に使われている彩色材料調査を奈良国立博物館において行った。剥落が激しく、図像の確認も現在では困難であるが、2〜3種類の白色材料の存在が示唆される結果が得られ、その使い分けや図像表現についての検討が待たれる。また、黒色や水色部分から鉛が大量に検出されるなど、新たな知見をいくつか得ることができた。
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