平成19年度は、九州国立博物館所蔵の阿弥陀如来坐像(収蔵品番号C5)、福岡・善導寺所蔵の善導大師立像、熊本・個人所蔵の十一面観音立像、永仁3年(1295)院玄作の熊本・青蓮寺所蔵の阿弥陀如来立像および観音菩薩立像・勢至菩薩立像、大分・真木大堂所蔵の矜羯羅童子立像および制〓迦童子立像、正安2年(1300)の佐賀・高城寺所蔵の蔵山順空坐像の調査および解析を実施した。制作年の明らかな基準作例が2件解析し得たことは大きな成果であった。 納入品の検出は2件あった。九州国立博物館所蔵の阿弥陀如来坐像では体内に和綴本一冊を、善導寺所蔵の善導大師立像では頭部内に人歯2個の存在を確認した。像構造について、かつて寄木造と記述されていたものを一木割矧造と訂正することのできた例や、後補とみられていた部分が当初といえることを確認した例もあった。 外部依頼に基づく調査も実施した。熊本・個人所蔵の十一面観音立像は地元の仏像修理業者から内部構造解析の依頼を受けたものであった。解析結果に基づき、修理にあたって適切な助言を行なうことができた。 調査対象については、所蔵者や地元教育委員会等の理解を得て、九州国立博物館の特別展や文化交流展(平常展示)において展示公開を行なった。広報や解説キャプションの作成にあたり解析結果を盛り込むことができ、成果を広く公表した。所蔵者や関係者に対しても、解析結果について博物館内で分かり易く説明を行なったほか、対象の返却の際に概要をまとめた資料を作成・提出するなど、文化財の構造理解に資するよう努めた。 九州国立博物館紀要『東風西声』第3号(平成19年10月発行)に、九州国立博物館所蔵の阿弥陀如来立像(収蔵品番号C4)の基礎資料を鳥越と連名で公刊した。なお基礎資料作成、科学的データの解析、画像データの整理作業は、以上の調査のほか平成18年度実施分の整理も含め、平成20年度も継続する。
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