平成20年度は、九州所在の文化財として鹿児島・南洲寺所蔵の不動明王立像(鹿児島県指定文化財:12世紀)、佐賀・大興善寺所蔵の十一面観音坐像(面部:16世紀、体部:17世紀)、福岡・御自作天満宮所蔵の天神坐像(頭部:15世紀、体部:17世紀)の調査および解析を実施した。九州国立博物館所蔵の阿弥陀如来坐像(収蔵品番号C5:13世紀)については線源に近づけて再撮影を行うなど、より鮮明な納入品画像が得られるよう努めた。 南洲寺像については、九州国立博物館内の文化財修復施設における修復事業と連動させて解析を実施した。修復着手にあたって修理技術者とともに解析を行ない、修復仕様の策定に役立てた。竣工後は、所蔵者と地元教育委員会の理解を得て約3ヶ月間の修理完成記念公開を実施することが出来た。解析結果を展示室掲示の解説パネルで紹介するなど、広く一般へ成果を公表するよう努めた。大興善寺像と御自作天満宮像については、特別展開催のため借用し調査を実施したものである。いずれも室町時代の古像の一部を用いて江戸時代に再興したという記録・伝承を伴うが、解析の結果でも木目や木質年代の違いが明瞭に検出され、記録・伝承の内容を科学的に確認できた。御自作天満宮像については、こうした解析結果を特別展開催期間中に掲載した作品紹介新聞記事のなかで画像とともに分かり易く紹介した。いずれも所蔵者への返却の際に概要をまとめた資料を作成・提出するなど、所蔵文化財の構造や保存状態の理解に資するよう努めた。 九州国立博物館紀要『東風四声』第4号(平成21年3月発行)に、九州国立博物館所蔵の阿弥陀如来坐像(収蔵品番号C5)の基礎資料を鳥越と連名で公刊した。なお基礎資料の作成、科学的データの解析、画像データの整理作業、研究発表は平成21年度も継続して行うつもりである。また、平成21年度においては九州・沖縄地区から彫刻作品を借用する特別展が開催される予定である。その機会を多いに利用して九州所在木彫像の基礎資料を蓄積してゆくつもりである。
|