「平安朝物語における<本文>生成の機構一定家校訂テキストと非校訂テキストとの比較」と題する本研究は、定家校訂テキストへの遡源とその復元を目的とする定家至上主義を離れ、一見混乱した本文を持つように見える定家校訂以前のテキストの本文と定家校訂テキストとを比較することによって、平安物語の本文読解のためのテキストとして広く利用されている、いわゆる定家本の〈本文〉がどのような本文から、どのような判断によって生成しているのかを明らかにし、可能な場合はその原則を探り、平安物語の本文として採用されることの多い定家校訂テキストの生成の機構を究明し、同時に、その校訂によらない本文のかたちの再評価を試み、定家の判断と校訂を通さない、平安朝物語のかたちへの遡源を試みることを企図するものであった。 そのために、研究年度2年目にあたる平成20年度は、下記の研究活動を行った。 『源氏物語』については、前年度同様公刊された資料のうち前年度収集できなかったもの、また継続刊行中の資料を加え、データの解釈の確度を高めることをはかるとともに、諸所に蔵される古筆切資料を撮影、収集した。 『伊勢物語』については、前年度同様、公刊された資料のうち前年度未収集の部分の補充に努め、また研究活動のうちの大きな部分を占める「古本」とされる伝本を、所蔵する機関において調査・撮影するとともに、古筆切の収集に努め、データの収集をはかった。本年度の収穫の一つは、『伊勢物語』古本の定家仮名遣いとは異なる仮名遣いを指標として、その本文が定家本系の本文と異なるかたちをとることを確認し、定家校訂以前の本文のあり方の一端を明らかにしつっあることである。 また研究成果の社会への発信のために、平成20年度は、成果の一部、特に『伊勢物語』の定家本と非定家本の区分の指標の問題について、平成20年(2008)5月28日に台湾の台湾大学日本語文学系所講演会における講演「古典籍断簡(古筆切)の意義」で発表した。
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