「平安朝物語における<本文>生成の機構-定家校訂テキストと非校訂テキストとの比較」と題する本研究は、定家校訂テキストへの遡源とその復元を目的とする定家至上主義を離れ、一見混乱した本文を持っように見える定家校訂以前のテキストの本文と定家校訂テキストとを比較することによって光平安物語の本文読解のためのテキストとして広く利用されている、いわゆる定家本の<本文>がどのような本文から、どのような判断によって生成しているのかを明らかにし、可能な場合はその原則を探り、平安物語の本文として採用されることの多い定家校訂テキストの生成の機構を究明し、同時に、その校訂によらない本文のかたちの再評価を試み、定家の判断と校訂を通さない、平安朝物語のかたちへの遡源を試みることを企図するものであった。 研究年度3年目にあたる平成21年度は、平成21年度は特に『伊勢物語』に集中して研究を行い、研究活動のうちの大きな部分を占める、「古本」とされる伝本を、所蔵する機関において調査・撮影するとともに、古筆切の収集に努め、データの収集を行い、またこれまでに収集した資料によって分析をすすめた。本年度の収穫の一つは、『伊勢物語』古本の定家仮名遣いとは異なる仮名遣いを指標として、近年定家本系に位置付けられる傾向があった天理図書館本等について、古本系に位置付け直し、その本文が定家本系の本文と異なるかたちをとることを確認し、定家校訂以前の本文のあり方の一端を明らかにしつつあることである。 また研究成果の社会への発信のために、平成21年度は、成果の一部、特に『伊勢物語』の定家本と非定家本の区分の指標の問題をふまえながら、平成22年(2010)2月27日に台湾大学で開催された「2010台大平安朝文学国際学術研討会」において招待発表を行った。
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