本研究は、泉鏡花作品の「成立」と「受容」の諸相を、(1)同時代の文壇や出版メディアの状況、(2)同時代の作家の言説や創作活動、(3)古典文学の研究や出版の動向、(4)能狂言・歌舞伎・落語・邦楽等の古典芸能の状況、(5)鏡花文学研究史、(6)近現代における鏡花文学の受容と再生(映画・舞台芸術)の状況を広く視野に入れつつ、「対時代性」と「伝統性」という観点から再検証し、鏡花文学の位相と特質を明らかにしようとする試みであり、平成21年度は、平成19・20年度に引き続き、(1)同時代評の収集・整理、(2)先行研究文献の収集・整理、(3)鏡花作品に引用されている伝統芸能の収集調査を行うとともに、泉鏡花研究会等に参加して、個々の鏡花作品の検証に努めた。『国文学解釈と鑑賞』(平成21年9月号)の特集「泉鏡花文学の位相」の企画立案に携わったことも大きな成果である。「同時代からの照射(1)泉鏡花文学の成立と受容」「同時代からの照射(2)作品の再発見・再検証」と題する研究論文企画を組み、問題意識の共有に努めた。同紙掲載の拙論「鏡花文学の成立と文芸時評-「湯島詣」「高野聖」への軌跡-」は同時代評の収集をもとに、文壇との関係において鏡花文学の成立を検証したものである。また、日本近代文学会の特集では、「貧困」というテーマのもと、一葉・眉山との比較を通して、「貧民倶楽部」を材に鏡花文学の特質を論じた。これも鏡花作品の「対時代性」を検証する取り組みの一部となった。
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