昨年度は、風土記研究会において、シンポジウム「九州風土記を考える」を立案・実施し、別府大学において、現地見学を伴う充実した大会を開催することができた。その際の発表原稿を成稿化したものが論文「九州風土記を考える一『万葉集』から」(現在印刷中)だが、九州風土記の甲類・乞類と『日本書紀』との関係を、『万葉集』を媒介にすることで、一定程度あきらかにしえたと考えている。また、最初期の風土記が、大宰府や中央官庁において、行政の参考資料として用いられていた実態をあきらかにしえたことも大きな成果であると考えている。また、新たな東国像が、いわば中央の側のエキゾチシズムによって作られたこと、それをもとにしながら、『源氏物語』の浮舟像が形象されていることを、論文「東国の女浮舟」によってあきらかにした。なお、昨年度の最大の成果は、『万葉集全解』の刊行である。原文・訓み下し、注釈からなる『万葉集』の本格的な注釈書であり、本研究の成果を縦横に取り入れた、学界に新たな成果を示すことのできる内容であると自負している。『万葉集全解』は隔月の刊行だが、とりわけ巻14の東歌、巻20の防人歌の分析には、新たな東国像のありかたを解明しようとした、本研究の成果がつよく反映されている。なお、一昨年度の古事記学会において、辺境における太陽神信仰とアマテラス信仰との交渉過程をたどった研究発表を行ったが、昨年度は、その成稿化をめざして現地調査等を行うなどした。
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