昨年度(平成21年度)は、本研究の最終年度にあたる。「辺境の文学史」を考える際の最大のテーマは、東国の文学をいかに把握するかにある。『万葉集』の東歌、防人歌はその恰好の資料になる。昨年度は、この十数年の研究の総決算として、東歌、防人歌を含む、『万葉集』の全訳注を、『万葉集』『全解』全7巻(総計約3500頁)の単著として、筑摩書房から刊行することができた。その注釈の中で、また解説の中で、東歌、防人歌の文学史的な位置づけを詳細に行った。その中で、東歌と防人歌では、『万葉集』の中に取り込まれる事情に明確な差異があることを具体的に指摘した。この成果には、大いに自負するところがある。さらに一昨年、風土記学会において、大宰府における九州風土記(甲類・乙類)の作成と『万葉集』巻5の関係についの発表をおこなったが、その成果を『風土記研究』誌に論文として公表した。従来の研究を越える新たな知見を提示することができたように思う。また、昨年、高岡市万葉歴史館において、「越中国守大伴家持」と題する記念講演を行い、その成果を同題で『高岡市万葉歴史館紀要』に公表した。この中では、越中という北の辺境の国守としての大伴家持の役割を詳しく解き明かした。また、柿本人麻呂の近江への旅を取り上げた「「近江二首」を読む」を依頼によって、『論集上代文字』に公表した。これも広くいえば「都」と「鄙」の関係を扱っており、本研究の主題とも大きくかかわるところがある。なお、『万葉集全解』の成果をもって、本研究全体のまとめにあたる研究成果としたいと考えている。
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