平成19年度においては、財団法人前田育徳会尊経閣文庫所蔵の尭恵自筆資料2点を複写し、そのうち1点「古今集中本歌証歌」を文庫の許可を得て翻刻刊行した(『お茶の水女子大学人文科学研究』第4巻、平成20年3月刊)。尭恵の古今集注釈書として名高い『古今集延五記』と相補って利用されるべき重要な資料で、これが初めての本文提供である。ただし、雑誌の枚数制限が厳しいため、本文翻刻のみで、内容についての解題を付すことができなかった。これについては別の機会を得たい。 また、『古今集延五記』自体についても、これまで内容に注目しては紹介されてこなかった異本(静嘉堂文庫所蔵)の存在に気付き、この全文複写を入手した。天理図書館蔵の自筆本に対し、版本が後半において別系統の本文を持つことは指摘されていたが、静嘉堂文庫本は版本系統で、しかも天正年間に遡る写しであり、また版本が欠く切紙部分を有し、版本が欠く声点を豊富に持つことがわかった。古今伝授史研究上にも、アクセント史研究上にも、非常に重要な伝本と言えよう。この本と天理自筆本とを詳細に比べることで、両系統の分立の事情を明らかにできるのではないかと考えて調査を開始した。大部な作品なので、最終的な結論をまとめるのにはまだ時間が必要である。 その他、各地の関係資料の原本調査・複写を重ねて、考察のための基礎資料を蓄積した。また、国語史関係(特にアクセント史)の研究書をまとめて購入し、理論の学習に務めた。
|