本研究は、平曲(平家琵琶)に関するいろいろな資料を調査し、整理しようとするものである。 1 本年度、もっとも重点的に調査を行ったのは、富山県黒部市の私立・宮崎文庫記念館の所蔵する平家物語に関するものである。この本は、外題内題ともに平家物語であるが、内実は平曲譜本で、数年前に、私が『平家吟譜』の完本であると判定したものである。『平家吟譜』は、平曲の流派・前田流の譜本として、『平家正節』よりも前に成立し、記譜法などに特色のあるものだが、近代になってからは、端本の報告はいくつかあったものの、全巻揃いがみつからなかった。このたび発見することが出来、本年度、村上光徳氏と共編で影印公刊したのである。その準備のため、現物との照合調査を何度も行い、その上で解題を執筆することができた。本書の刊行は、平家物語の語りの、より古い段階のすがたの解明に資するところが大きいと考えられる。 2 平家琵琶演奏家・橋本敏江氏とともに、弘前学院大学において、平家琵琶に関するワークショップおよび演奏会を行って、多数の参加を得た。 3 尾崎家本『平家正節』の翻刻写譜を行い、本年度は、平家物語の卷第十相当分の16句を完了した。 4 甲南女子大学本『平家物語』の翻刻は、卷第六末「横田河原合戦」まで完了した。 5 平家琵琶関係の書『平曲雑記』等の複写を入手した。今後の研究に大いに役立つものと考えている。
|