昨年度に続き、王朝物語の「和歌」と絵画資料との関連を示す資料を調査し、これまでの研究成果を整理する中に位置づけた。『狭衣物語』に関しては新発見を含む現存資料を総合的にまとめて論文として発表し、フランクフルト実用工芸博物館蔵の「源氏狭衣歌合絵巻」については、今年度に行った調査に基づいた論文を投稿中である。『源氏物語』に関しては、これまで未紹介であった大英博物館蔵の二種類の「源氏物語絵画帖」を主として、架蔵の「源氏物語絵貼交屏風」および伝土佐光則画「源氏絵画帖」の絵五面とその詞書などについて調査した。 それらの絵に伴う公家や能筆の文化人による詞書の伝承筆者を、これまでの研究によって明らかになっている江戸前期の代表的な作例と比較する一覧表を作成した。今年度はニューヨークのメトロポリタン美術館とワシントンのフリア美術館における国際研究集会にも参加し、広く物語絵についての情報も収集した。昨年度末に調査したダブリンのチェスタービーティ図書館蔵の物語絵資料などと共に、江戸前期の物語享受の具体像を解明しつつある。 以上のような、海外の収蔵作品を含む未紹介資料を発掘し、江戸前期を中心とする物語絵と「和歌」に関する基礎研究を固めつつあることは、重要な成果であるといえる。また、『源氏物語』を中心とした王朝物語絵と、その絵に伴う詞書ないし歌の筆者について研究することは、絵の場面選択や成立背景を具体的に比較検討することにより、王朝文学の享受史や注釈史を再検討する意義を持つ。
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