前年度に引き続き、刊本『文反古』とその異文および周辺の和文作品についての研究を進めるとともに、『春雨物語』の本文の生成の問題について考察した。 前年度の研究により、秋成の書簡・秋成への書簡を集成した『文反古』の成立において、さまざまな草稿的文章が存在することが明らかになったが、本年度は、手紙という閉じたテクストが、公刊されて開かれたテクストとなってゆく過程を追及するとともに、従来未紹介の架蔵〔秋成消息文集〕について検討、これによって新出秋成書簡4通と新出和歌4首を発見・報告することができた。また『文反古』の版下を書いたのが、従来言われているように昇道ではなく、松本柳斎であることが、柳斎自筆資料によって明らかとなったので、これを報告した。『文反古』の本文全体の注釈については、さらに詳細な検討を重ね、公表すべく準備を進めた。 『春雨物語』は、従来テクストレベルの本文論によって、その生成が議論されてきたが、モノとしての和文作品という観点から、その議論の前提を再考する論文を発表した。すなわち、最大の問題となっている文化五年本と富岡本を、創作意図などの観点からのみ考察するのではなく、その贈与性などを勘案すべきではないかとの異説を出した。 以上の研究論文の執筆・刊行の他、秋成和文の生成に関わる文献の調査を進めるために、当時の和文流行の実態を探る一端として、上方絵本読本に顕著にみられる和文序文について収集・考察した。
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