前年度に引き続き、刊本『文反古』とその異文および周辺の和文作品についての研究を進めた。研究成果報告書には、その成果の一部である『文反古』注釈を掲載することにした。『文反古』は秋成晩年の作品で、和文の生成と変容を探るのに適している。またこれまでは、秋成の伝記資料に用いられるばかりで、作品としての検討が全くなされておらず、当然注釈も皆無である。研究成果報告書に掲載した注釈稿は、はじめての注釈として意義があるのみならず、秋成の伝記研究や近世京都文壇の研究にも資するものである。 また、秋成晩年の草稿投棄が『春雨物語』の形成に関わっていることを、秋成の「いつはり」意識の観点から考察し、研究発表および論文執筆を行った。本研究は、秋成晩年の作品に一貫して流れる「いつはり」の自覚的意識を、晩年の草稿投棄との関係で解き明かそうとしたものである。秋成晩年の創作意識の議論に重要な提言をしたと考えている。 その他関連する論文2本を発表した。 2010年1月には、特別研究会を大阪大学で開催し、稲田篤信(首都大学東京教授)・長島弘明(東京大学教授)・廣瀬千紗子(同志社女子大学教授)の三氏をお招きして、それぞれが研究発表会を行った。発表内容は、稲田篤信「寛政期上方文壇と和文」、廣瀬千紗子「秋成の茶論と和文」、飯倉洋一「『文反古』と「麻知文」」長島弘明「『藤簍冊子』再考」で、活発な議論が行われ、有意義であった。
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