本年度は、日本の茶の伝来に関する伝承をめぐり、栄西の事跡を中心に研究を行った。 まず、栄西の著書『喫茶養生記』を読解し、密教の教学に基づき、新しい茶の飲み方を提案した書であったことを明らかにし、『芸能史研究』第177号に論文を発表した。栄西の提唱は、それまでの茶の飲み方とは、添加物を加えない点において異なり、茶そのままの味を味わう飲み方を推奨したことになる。そのことが、後の日本の茶文化に大きな影響を与えたと指摘した。 この研究によって、茶と禅との関わりについても新たな視点が必要となった。そこで、栄西の入宋前後の活動について、調査と研究を行った。栄西自身が著したと推測される「入唐縁起」を調べると、入宋も密教の学問の成果によって企画されたことが明確となった(遣隋使・遣唐使1400周年記念国際シンポジウム「東アジア文化交流の源流」において発表)。栄西の密教との関わりについては、愛知県名古屋市の大須真福寺で新たに発見された栄西の著作『改偏教主決』の研究会に参加し、現在も読解を続けている。『改偏教主決』は、栄西の伝記研究にとっても新資料となり、茶伝承生成の背景を考える上でも重要といえ、『元亨釈書』や『松霊一枝』、『渓嵐拾葉集』と併せて調査を行っている。研究会では平行して、栄西の時代の禅の資料の読解も進めており、日本における禅文化の展開の基礎として、今後も研究を続ける予定である。 また、茶祖の伝承に関しては、栄西と明恵の関係を軸に、現在、論文を執筆している。来年度、発表する予定である。
|