研究概要 |
本年度は、中世の茶文化の形成過程を考える前提として、大陸の文化が日本へどのような影響を与えたかについてを中心に研究した。まず、栄西の二度の入宋の前後の事跡を綿密に検証するととともに、そのことが後代に如何にして伝えられたかを考察し、鎌倉時代後期に、栄西後継の活躍地盤の趨勢を背景に、現代にも通じる栄西像が確立したことを明らかにした。また、この時期以降、栄西の禅はクローズアップされるようになることを指摘し、それが後世の茶文化にも影響したことを見通した,また、当時の禅文化の受け止め方を考察するにあたり、『憂喜餘の友』の研究を前年度より引き続き行った。本年度は、主に前年度の発表を論文化した(「『憂喜餘の友』から『千代野物語』へ-中世における千代野開悟譚の展開-」と「千代野物語の詞と絵」)。 これらの研究は、いずれも本科研の前年度の成果を発展させたものである。栄西著「入唐縁起」の調査を踏まえ、資料に散見される栄西の大陸での活躍を再構築したのが、「栄西の入宋-栄西伝における密と禅-」であり、栄西の密教との関わりを明確にすることは、『喫茶養生記』執筆への過程を裏付けることにもなった。また、伝記については、前年度からの課題であった栄西の新出著作『改偏教主決』の考察を通して、これまで不明であった2度目の入宋までの動向に新知見を得た。これらは、前年度からの『元亨釈書』『松霊一枝』『渓嵐拾葉集』の調査と平行して行い、「『改偏教主決』発見による栄西伝記の再検討」に結実させた。 茶祖としての栄西像の形成地盤はほぼ見通しが立ったといえる。現在は、資料収集および考察を行っており、来年度、論文化する予定である。
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