本研究では「引揚げ/復員」と「残留」というテーマに焦点を当てて、それを物語や事件として語るテクストを(語り得なかった物語をも含めて)分析した。多く女性の書き手によって語られる「引揚げの物語」と、男性が語る「復員の物語」は協力して、戦争で破壊された家族の再建と国家国土の復興という大きな物語を生んだ。引揚げ文学において、戦争に先立つ植民地進出と植民地からの収奪が不問に付された。引揚げと残留とがともに戦争によって引き起された移動の結果であるとするならば、引揚げ物語と在日の物語とを、同時に、戦争による移動の文学という表裏一体のもの、「移動の文学」の一部として読むことが必須であろう。
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