今年度の研究の中心をなすのは、全国に散在するであろう近世冷泉派関係資料の所在確認と収集である。久保田は徳川幕府の庇護を手厚く受けた冷泉家の特色に鑑み、東京都、静岡県、愛知県、名古屋大学、和歌山大学などの資料目録を購入して資料の検討を行った。また、近世歌書の収書で有名な慶應義塾、近世中期の当主が冷泉門であった毛利家と三奈木黒田家、さらに好学の大名として聞こえた平戸の松浦家などに関わる目録類をも購入して検討の対象とした。この作業と並行して従来も豊富な資料の所蔵先として知られる静嘉堂文庫、国立公文書館内閣文庫、佐賀や山口の図書館などで調査し、複写による収集を行った。萩原宗固の詠草類や勅撰集注釈について資料の整理と翻字を開始した。なお、物品としてデジタルカメラ一式を購入したが、今年度の調査に使用するには至らなかった。次年度以降、複写の依頼が難しい場合に活用する予定である。 山本は近世冷泉派の周辺に位置する上方の和学者や懐徳堂関係者の和文資料を中心に収集した。特に京都の和文壇全般に対する総合的な検討を、和文という分野を通じて開始したといえる。和文は近世文学史の中に未だ位置づけられていない分野なので、今後の進展が期待できる。 研究成果としては、大田南畝編の和文集『ひともと草』に詳注を施して解読と研究の指針を提示し、江戸冷泉派の重鎮成島信遍の詳伝により歌壇・文壇状況を押さえ、萩原宗固の点取狂歌を和歌周辺資料として再検討するなどした。
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