近代小説が生成される過程を精査するためには、活字媒体であう新聞などと書籍との関係を明らかにすることは不可欠である。本研究は、明治前期の報道と時事的な小説との関連性を具体的な書誌年表として提示することにある。 これまでの資料収集を前提として、本年度も資料収集に当たっては、研究補助者の協力を得て、国会図書館・近代文学ライブラリーなどの資料を収集できた。それらの文献を書誌年表に作成するのが、本年度の主たる作業となった。書誌年表は、明治初年から帝国憲法が発布された明治二十二年までの、社会的事件や新聞連載記事に基づく書籍(中心は小説)を一覧化したものである。連載状況などについて、掲載新聞の所在が確認できず、その全てを埋めることができなかったが、ほぼ網羅できる書誌年表ができあがったと思う。なお、その一部を研究成果として、「日本近代文学館年誌」に発表した。 この書誌年表を分析する中から、新聞報道の「事実」に基づく書籍が、出版市場の主要な商品である読み物分野を形成し、それが小説として受容されていく動向が確認できた。そればかりではなく、明治十年代になると、明確な政治的主張を読み物化する分野として意識され、国会開設に当たっては、多量な時事小説が刊行されていたことが判明した。これらの知見に基づき、さらに報道と小説との関わりを追求していくつもりである。
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