研究概要 |
本年度は、研究課題「元禄以前往来物版本の書誌解題研究に基づく近世前期出版財発」(平成19年度〜平成21年度)の第2年度にあたり、次のような研究を実行し、成果を得た。 1.小泉吉永氏所蔵の往来物資料の文献情報収集を実行した。 2.1.に基づき、近世前期に出版された往来物の書家に注目し、女性用としての長谷川妙貞を祖とする長谷川流手本を主にとりあげ、書誌学上、重要な情報を含むと思われる版本解題のための準備を実行した。 3.以上の研究をふまえ、次のような成果を得た。 (1)近世前期の出版界において、現代で言うところのいわゆる「著作権」あるいは「版権」という概念がいつごろから始まったのかは明らかになっていない。その中で、長谷川流手本の版本に見える「正筆云々」の奥書と印が、これらの概念のはじまりを示しているのではないかと考えられる。 (2)当時隆盛を極めた長谷川流の手本については、すでに小泉吉永氏によって版本について網羅的なリストが作られているが、なおそこに漏れた版本も少なくなく、今年度の調査にによって新たに版本二種が見いだされた。また写本三種も見いだされた。しかもある版本の表紙裏には「長谷川門弟云々」という所蔵者の書き付けが見いだされ、このような版本の買い手層を知る手がかりが判明した。 3,本年度内においては残念ながら考察結果を発表することができなかったが、以上の準備を手がかりに、最終年度、さらに資料を収集し、考察結果を発表する予定である。
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