本年度は、元禄前後に出版された往来物版本の版下筆者たちに注目し、その肉筆本の発見および書誌解題研究を実行した。 往来物版本は本来手習い用の肉費手本の代用として便用されるものでめり、出版されるにさいしては、当然、能筆書家たちの執筆した肉筆本の存在が前提となる。しかしての肉筆本の伝存は、少なくとも元禄以前においてはきわめて希であり、かれら書家たちの筆跡は、版本でしかうかがえないことが大半である。 太課題研究の補助を受け、本年度は、元禄から享保年間に京都で活躍した長谷川妙貞の自筆手本巻、元禄前後に大坂で活躍した書家・狂歌師である永井如瓶(名は喜、字は政純、号は走帆・如瓶など)の自筆手本、延宝年間の前後に『四季仮名往来』『富士野往来「などの手本を出版し、江戸で活躍した置散子の自筆手本、短冊屋八左衛門なる者が商業的に制作した『詠歌大概」巻物などの新出資料を発見し、その一部を収集することができた。 時間の制約上、残念ながら、本年度内においては研究成果を公刑することかできなかったが、長谷川妙貞の自筆手本については、従来の課題研究においても何点かを収集済みであり、版本化された内容と自筆手本の内容を比較検討することによって、当時の往来物用版のプロセスをある程度明らかにすることができるのではないかと思われる。
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