1.事前調査で所在確認・個人研究用記録済みの「ウィーン国立民族学博物館蔵『西行記』四巻写本(フランツ・フェルディナンド大公旧蔵、Jap.113.892〜895)は揃いの善本。掲載許可を取得し、解題と翻刻とを『三田国文』第四十三号及び第四十五号に掲載した。 内容:『西行物語』の諸本は、久保田淳・千野香織氏等によると四系統に分類されており、本絵巻の本文は(三)海田采女本系に属することが明らかになった。 意義:原本は伝存不明である。宗達の模写の一つ続群書類従本(第三十二上)所収、渡辺家所蔵本(現在、出光美術館蔵)およびセンチュリーミュージアム本等が知られており、本絵巻の本文は後者に近似する。 重要性:千野香織氏がすでに指摘されているように、采女本については、今後詳しい復元的考察が必要である。詞書と絵とを正しく対応させることができない段も存在する(『日本絵巻大成26』162頁)。先述の翻刻を提示するに当たり、ウィーン国立民族学博物館本を基軸に続群書類従本・渡辺家本の詞書配列一覧を提示したが、三者間の錯簡の状況は複雑で、詞書および絵の対応をも含めて抜本的な原本復原の試みは今後の課題である。 2.(1)バイエルン州立図書館所蔵『源氏小かゝみ』五巻、写本(Philipp Franz von Siebold旧蔵、Cod.Jap.14)・同館所蔵『源氏物語』五十四巻(シーボルト旧蔵、Cod.Jap.18)の現地調査・資料入手・掲載許可取得(2007年11月12日付)。前者は国内諸資料と校合の結果、伊井春樹氏分類の第二系統本(改訂本系)に属することが判明。巻一の解題・翻刻を『三田国文』四十七号に投稿中。(2)ミュンヘン国立民族学博物館所蔵『化物画帖』『源氏物語図会』『百人一首』上下巻の調査を加え、19年度の研究実施計画を十分達成し得た。 3.出張先:ドイツ国 チェコ共和国(自平成19年9月15日至平成19年9月29日)
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