本研究は19世紀の草双紙の様式である合巻について、絵と文の双方から見た総合的な徳川期合巻史の再構築をめざすものである。 具体的には、従来の文学研究・絵画研究で比較的看過されてきた、浮世絵師が描く挿絵に着目し、合巻において最長・最多の業績がある歌川国貞をとりあげて、出版史における位置づけを再検討する。 その方法として、二つの柱を掲げた。一つは国貞が関わった合巻の書誌研究を行なうこと、二つは象徴的な作品に絞って研究を行なうこと。 22年度の成果は以下の通りである。 1、これまで行ってきた合巻『塵塚物語』の注釈を踏まえ、作者が別のジャンルで同じ題材を展開させていた二作品との比較を通じて19世紀合巻の様式について考察、「奈良絵本・絵巻国際会議ニューカッスル大会」にて発表した(十九世紀合巻の表現方法--山東京山『塵塚物語』から)。またこの『塵塚物語』に関する研究を(注釈・翻刻・影印を含む)をまとめた。 2、歌川国貞が関わった天保時代の長州藩主毛利斉元が作成した狂歌摺物に関する論文を『浮世絵芸術』に発表(「柳桜亭江戸廼花也〈長州藩主毛利斉元〉の狂歌摺物--伝記と『斉元公御戯作集』を中心に」)、大名の伝記から当代の人気浮世絵師による摺物が制作された事情を掘り起こし、またこの浮世絵を愛好した大名を通じて、雅と俗が混じり合う江戸文化のあり方を考察した。 3.昨年までに引き続き、歌川国貞が挿絵を描いた合巻および周辺資料の調査を継続して行ない、マイクロ複写と古典籍による資料収集を行なった。これに基づき、初代歌川国貞の合巻データベースを作成した。
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