本研究の目的は、(1)未翻刻の源氏物語古注釈書である『長珊聞書』(陽明文庫蔵、全53冊)の翻刻とその内容に関する検討、(2)一条兼良から宗祇、牡丹花肖柏、三条西実隆らへといたる室町時代の源氏物語古注釈の展開に関する新たな視座からの調査・考察、という2点である。 (1)については、平成19年度は早稲田大学大学院出身の新美哲彦・緑川真知子・横溝博の三氏の協力を得て、翻刻作業を続けてきた。当初は、年度内に全4分冊のうちの第1分冊(「桐壺」〜「須磨」巻)の刊行を予定していたが、可能な限り正確な翻刻を提供するという方針で慎重に進めているため、翻刻作業が予定よりも遅れている。しかし、平成20年度中には第1分冊の刊行に至る準備が整いつつある。 (2)については、横溝博氏の全面的な協力を得て、未翻刻資料である『源注』(島原松平文庫蔵)の翻刻作業をほぼ完了している。『源注』には、一条兼良から肖柏、三条西家へと展開する注釈の流れをとらえる上できわめて重要な『肖柏問答抄』などが含まれている。上記の翻刻、及び『肖柏問答抄』に関わる論文・解説などは、いずれも平成20年10月刊行予定の『平安文学の古注釈と受容第一集』(陣野・横溝共編、武蔵野書院)に掲載することが決まっている。また、平成19年度中には、この論集の企画・編纂に取り組む過程で、源氏物語古注釈を新たな視座からとらえてゆくことの意義に関する論を『武蔵野文学』誌上に発表した。 これらの源氏物語古注釈研究と並行して、より広く、物語文学の受容について検討・考察を続けているのだが、平成19年度中には、『堤中納言物語』に含まれる短篇物語「よしなしごと」と「冬こもる……」に関する論文1篇を発表した。
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