本研究は、(1)未翻刻の源氏物語古注釈書『長珊聞書』(陽明文庫蔵、全53冊)の翻刻とその内容に関する検討、(2)一条兼良から宗祇、牡丹花肖柏、三条西実隆らへといたる室町時代の源氏物語古注釈の展開に関する新たな視座からの調査・考察、という2点を目的としている。今年度はこれらに直接対応する研究活動として、主に以下の3つを進展させた。 まず、『長珊聞書』の翻刻作業。これは、年度内に全4分冊のうちの第1分冊の刊行を予定していたが、翻刻にかなりの時間を要しているため、平成21年度内の刊行をめざしている。 次に、ベルリン国立図書館蔵『源氏物語』54帖(室町末ごろ書写)の調査。この写本が、三条西家流の本文をもっている可能性があること、またプロパーの調査が充分になされていないことを確認した上で、現地に赴き調査するとともに、マイクロフィルムの複製も入手した。本文は、全体に三条西家流であることが確認されたが、興味深い独自異文を有する箇所があることも把握した。平成21年度以降、より詳細に調査する。 三つめは、横溝博氏(秀明大学専任講師)の全面的な協力を得て、未翻刻資料『源注』(島原松平文庫蔵)の翻刻作業を完了させた。これには、一条兼良から肖柏、三条西家へと展開する注釈の流れをとらえる上できわめて重要な『肖柏問答抄』などが含まれている。この翻刻全文は、平成20年9月刊行の陣野・横溝編『平安文学の古注釈と受容第一集』(武蔵野書院)に掲載した。あわせて、この論集には古注釈に関する論考を多数収載した。そのうちの1本は、拙論「『伊勢物語』と『源氏物語』をつなぐ古注釈-的はずれにみえる注記のみなおし-」である。 上記の研究活動に加えて、本研究に関わる仕事として、古注釈にみえるさまざまな注記の吟味をふまえた論考2篇などをまとめている。
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