本研究では、未翻刻の源氏物語古注釈書『長珊聞書』(陽明文庫蔵、全53冊)の翻刻を大きな目標としている。今年度も翻刻作業を進め、ひとまず全4分冊のうちの第1分冊に相当する部分については、研究協力者とRAの助力も得て、その大半の翻刻を終えている。ただし、翻刻公刊に際してはできる限り精確になるよう厳重にチェックする必要がある。現在は、そのチェック作業を進めている。今年度内の刊行には至らなかったが、遠からぬうちに武蔵野書院より第1分冊を刊行する予定である。 次いで、昨年度から新たに取り組み始めた江戸時代の『源氏物語』享受、とりわけ早稲田大学図書館蔵『源氏物語注』という未紹介の写本(1冊)の調査研究については、今年度も引き続き早稲田大学古注の会のメンバーとともに翻刻作業を進めた。既に半分以上の翻刻が済んでいるので、これについても遠からぬうちに公刊するつもりである(おそらく、私が編者として参画している『平安文学の古注釈と受容』第四集に掲載することとなろう)。 さらに今年度後半からは、早稲田大学図書館に収蔵されることとなった九曜文庫本の源氏物語古注釈書のうち、とりわけ貴重とおもわれた幾種類かの写本の調査に取り組みはじめた。その中には非常に珍しい片仮名本『河海抄』、また室町末期から江戸時代初期にかけての享受の実態をより具体的に示しうるような新出資料も含まれており、今後継続して調査に取り組むつもりである。 こうした源氏物語古注釈に関する研究と併行して、『源氏物語』の和歌的表現、同語反復表現、さらには形容詞「いとほし」の語意に関する研究を進め、年度内に計4篇の論文をまとめた。
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