「交付申請書」にしたためた通り、2つの課題-(A)近世中期歌書刊行年表の編纂、(B)小沢蘆庵・栂井一室ほか主要歌人の基礎的研究-を、適宜バランスをとりながら進めた。 (A)に関しては、昨年度作成した仮年表に、新たに今年度の調査によって得た書誌データを加えて年表の充実をはかった。未だ素稿の段階を出ないながらも、相応のデータが蓄積されてきたこともあり、それらを分析・検討して2本の研究論文を公表した。「歌書の変遷-江戸前期を中心に-」(「調査研究報告」30号、人間文化研究機構国文学研究資料館調査収集事業部、2010年3月)と、「江戸の王朝美-歌仙絵入刊本の展開-」(国文学研究資料館特別展示図録『江戸の歌仙絵絵本に見る王朝美の変容と創意』所収、2009年12月)がそれである。 また(B)に関しては、特に蘆庵について、新日吉神宮蘆庵文庫所蔵資料の蔵書目録を編刊し、その全容を解題「蘆庵文庫について」としてまとめた(日本書誌学大系『蘆庵文庫目録と資料』、蘆庵文庫研究会編、青裳堂書店、2009年10月)。良質な蘆庵関係資料に加えて、神官藤島家に伝襲した非蔵人関係史料がまとまって目録化されたことの意義は大きく、今後の研究のさらなる展開が予想される。栂井一室の歌友、石塚寂翁については、「石塚寂翁の家集について」(「上方文藝研究」6号、大阪大学文学部内上方文藝研究の会、2009年6月)を公表し、日野資枝門の上方地下歌人の知られざる伝と和歌活動を描き出した。
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