「交付申請書」にしたためた通り、2つの課題-(A)近世中期歌書刊行年表の編纂、(B)小沢蘆庵・栂井一室ほか主要歌人の基礎的研究-を、適宜バランスをとりながら精力的に進めた。 (A)に関しては、一昨年度より作成している仮年表に、新たに今年度の調査によって得た書誌データを加えて年表の充実をはかった。非常に地道な作業ではあるが、データは相応に蓄積されてきており、今後は、近世前期・近世後期とのデータの接続をにらみつつ、近世期を通しての歌書刊行年表の編纂と刊行(公開)に向けていっそうの努力を傾けたいと念じている。 また(B)に関しては、特に一室について、これまで未紹介であった歌論書『聞書』(大阪市立大学学術情報総合センター森文庫蔵)を翻字して各種索引を付すとともに(「『聞書』-栂井一室述・記者未詳-」『金城日本語日本文化』87号、2011年3月)、その歌人としての全体像を1編の論文にまとめた(「上方地下の系譜-栂井一室について-」『国語と国文学』88巻5号、2011年5月)。2009年度にものした石塚寂翁についての論文と併せて、従来不分明であった日野資枝門下の上方地下歌人の和歌活動の実態に、にじり寄ることができたと考えている。
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