『伊勢物語』『源氏物語』などの日本の物語文学が、同時代の中国の伝奇小説とどのような関わりをもって成立したかを考察し、東アジアという大きな視野の中に物語文学の成立を位置づけることが本研究の目的であったが、最終年度である今年度は、前年度までの考察をさらに進めるとともに、3年間の研究をひとまずまとめることに主眼をおいて、雑誌掲載や単行本分担執筆の形で5編の論文を発表し、また学会発表や講演を6回行うなど、さまざまな活動をおこなった。 中でも、9月に行われた和漢比較文学会の第28回大会で行われたシンポジウム「唐代伝奇と平安朝物語」において、3人のパネラーの一人として「『遊仙窟』文化圏構想は可能か-「かいまみ」と「女歌」-」と題して行った基調講演は、本研究3年間の成果をまとめて提示したものであり、そのうえにたって学界に大きな問題提起をなしえたと考えている。当日は、その問題提起に対して多くの意見が示され、有意義な議論を行うことができた。なお、基調講演を含むシンポジウムの内容は、『和漢比較文学研究』44号に掲載されている。 また、9月にはベルギーのルーバンカトリック大学で「日本の物語文学と「かいまみ」」と題して講演し、年度末の3月には、フィラデルフィアで行われたAASの大会に、伊勢物語の注釈史をテーマにしたパネルチームの一人として参加した。また、同じ3月末には、ニューヨークのコロンビア大学でハルオ・シラネ教授の招請によって、「伊勢物語の享受と絵画-第24段の場合-」と題する講演を行った。この講演は、物語文学の成立と伝来を絵画をも含めた視点から考えるという、本研究のもう一つのテーマに沿った研究成果を発表したものであり、当日は米国の日本文学・日本美術の研究者から多くの質問や意見が寄せられ、有意義な研究交流の場とすることができた。
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