本研究は、日本文学史において、○『万葉集』(高橋虫麻呂歌・田辺福麻呂歌・大伴家持歌の3作品)、○『大和物語』第147段「生田川」、○観阿弥作謡曲「求塚」、○森鴎外作戯曲「生田川」、というように上代から近代にかけて長く作品化された「菟原娘子伝説」の初発の位置にある『万葉集』の作品の表現を分析し、「墓」が作品の中の<場所>として選ばれていることの意義を追究している。その結果、 (1)「墓」という<場所>には死者への「偲ひ」の時間が堆積していること。 (2)墓の中に眠る人物と第三者の関係にある「作品の中の我れ」も、この堆積に立ち会うことで「偲ひ」に参加できるようになる機制があること、つまり、「墓」という<場所>が、「偲ひ」の回路を開き得ているということ。 (3)「墓」とは、肉親(やそれに準じる親しい人物)を偲ぶ「よすが」となるものだが、第三者に対しての顕示・アピールの機能をも含み持つということ。 などを明らかにした。 この研究成果を、2008年5月、新典社(東京都千代田区神田神保町)より、『死してなお求める恋心-「菟原娘子伝説」をめぐって-』と題して刊行した。この著書は、新書である分、一般社会人や生涯教育を志す人々など多くの国民に解りやすい表現にすることに努めた。この点、科学研究費補助金交付の成果の、国民への開示・説明のはたらきを、十分に果たし得ているものである。 また、この研究成果を、平成21(2009)年4月、「墓を歌うということ」と題して、『国文学解釈と教材の研究』(学燈社)54巻6号(4月臨時増刊号)誌上において公表した。この公表した媒体は高等学校教諭が教材研究のために使用する学術誌であり、また、大学生や生涯教育を志す一般読者が教養を深めるために読む学術誌である。このような媒体に研究成果を公表できたことも、科学研究費補助金交付の成果の、国民への開示・説明のはたらきを、十分に果たし得ているものである。
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