平成20年度は、大衆美術や出版界の方から大衆詩と大衆美術の交わりを検討した。とくに、19世紀中ごろからさかんになった、ギフトブックや豪華本の出版に注目し、それらの出版物にみられるイラストレーションの効果を分析した。具体的には、ブライアントなどの詩にマッケンティらが挿絵を添えたWinter Poems(1870)、ロングフェローの作品にフットらのイラストを付したThe Hanging of the Crane (1874)、ホイッティアなどの詩にホーマーらが挿絵を描いたChristmastide(1877)などの貴重な古書を収集することによって、詩とイラストレーションが相乗的にお互いの価値を引きあげたことを明らかにした。 たとえば、ギフトブックは、詩人にとっても、イラストレーターにとっても、出版社にとっても、さらには読者にとっても有益な出版形態であったことが分かった。それは、詩人にとって、自分の作品をいわばヴィジュアル化することができる機会であった。すなわち、自分の作品に付加価値を付けて再版できる機会であった。イラストレーターにとって、それは、新聞や雑誌の仕事と違い、作品を入念に制作することができる機会であった。詩の助けを借りることによって大胆な表現も可能であったし、テクストを補う積極的な役割も果たすことができた。出版社にとっては、それは、より高価な書物を売ることができる機会だった。価格の異なる複数の装幀を用意することによって、幅広い購買層に売り込むことも可能であった。読者にとっては、それは、自分が知っている作品を、イラストによって喚起される世界と絡め合わせながら読み直す機会になった。あるいは、自分が好きな作品を、家族や友人に贈ることによって趣味を共有する機会になった。 なお、ギフトブックが盛んになった背景には、活字とともに版を組むことができる木口木版の発展があった。このような大衆美術の技術的な進歩についても、前年度から続けて調査した。
|