本年度は、19世紀初頭のスコットランド女性詩人アン・ハンター、アン・グラント、ジャネット・リトルらと、彼女たちを支援した読者層を明らかにする研究を計画に沿って行なった。上述の3人は、現在の文学研究においてあまり重要視されていない詩人であるため、入手・閲覧できる研究資料もたいへん少ない。そこで、詩人個人だけでなく、彼女の支援者となったスコットランド読者層に関連する資料もあわせて収集・研究することにした。そのため4月から7月にかけては、おもに資料の検索と収集に専念し、研究の基盤となる文献の多くが揃った。8月から10月までの夏期休暇には、収集した資料と作品研究を行なうことになった。この研究調査によって、特にグラントが文学的にも人脈的にも前年度のベイリーと関わりが大きいことが判明したので、11月から12月にかけてはグラントの予約購読者一覧に記録されている人物を特定する調査を実施した。その結果、前年度のベイリーだけでなく、詩人ロバート・バーンズや作家ウォルター・スコットにまで広がる文芸サークルが宝、具体的に明らかでき、さらにはグラントの詩集の編集者で民謡集の出版者であったジョージ・トムソンが、広大な人脈の要と言えることが判明したので、彼についての研究を1月から2月にかけて実施し、次年度も継続することにした。3月には本年度の研究成果を、欧米言語文化学会(於日本大学文理学部)で、「詩人アン・グラントと19世紀初頭スコットランドの文芸サークル」と題して発表した。発表では3人の詩人の中でも特にグラントに焦点をおいて、無名の彼女を一躍有名にした予約購読者の意義を、編集者トムソンの思惑とスコットランド民族主義との関わり等を交えて明らかにした。この発表は来年度に論文化する。
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