昨年度のスコットランド女性詩人と読者層研究の成果を踏まえ、本年度は民謡集という媒体が啓蒙主義と民族主義の主張に果たした役割をも考察する学際性の高い研究となった。政治的・民族主義的思想を含んだ詩を、多くの人々、すなわち読者あるいは聴衆に、伝播させた具体的な方法とその成果についての研究である。詩人の周辺の文芸サークルや詩人の支持者も、その思想の発信に関わっていたことが明らかになった。具体的な成果は以下のとおりである。 (1)計画どおり、海外の図書館・資料館で資料収集を行なった結果、民謡集編集者トムソンの業績と、イギリスにおけるハイドン周辺について豊富な資料を収集することができた。また前年度までに必要であることがわかった資料の収集も合わせてできた。 (2)(1)の情報に精通しているグラスゴウ大学の研究者カースティン・マッキュー氏の知己を得たので、今後の研究での支援が期待できる。 (3)前年度に研究したグラント等の研究の補完を行ない、その成果を、イギリス・ロマン派学会全国大会(於明星大学日野キャンパス、10月4日)で「Mrs.Grant of Lagganの"Killiecrankie"の政治性と読者網の国際性」という題目で発表した。発表後にいくつか再検討すべき問題が明らかになったため、論文化は次年度に行なうことにした。 (4)11月以降は、ロンドンの文芸サークルと女性詩人の研究を行なうために、ヘレン・マライア・ウィリアムズやシャーロット・スミス等の関連資料の収集と精査を行なった。これは次年度にむけての基盤的な研究であり、その成果は22年度に学会で発表する計画である。
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