研究概要 |
本年度は、14世紀のフランス国王シャルル五世の宮廷と深い関わりのあった女性作家Christine de Pizanが、シャルル六世の治世に国王と諸侯の対立が基で生じた政治的混乱を憂いながら著した一連のフランス語の著作(Epistre au dieu d'Amours, Livre des faits d'armes, Epistre Othea, Livre de corps de policie)に焦点を絞り、それらが、ヘンリー四世治下の政情不安、バラ戦争の勃発、対仏戦争における最終的な敗北など、激動の時代を迎えていた15世紀のイングランドで英訳され、イングランドの俗語文化の成熟に寄与した経緯を分析した。具体的にはHoccleveのLetter to Cupid, William Worcester訳とされるThe Book of Noblesse, Lord Rivers訳とされるThe Body of Polycye, William CaxtonのThe Book of Fayttes of Armes and of Chyvalryeを考察対象として選んだ。これらのテクストを分析するなかで、まずはシャルル五世の後援を受けて仏語訳されたアリストテレスの政治学関係の著作がChristineの政治倫理思想に影響を及ぼしたこと、またJohn of Salisburyの政治社会観の影響を受けながらも、彼女がそこに世俗主義的観点から修正を加えていたことが確認された。さらに、王権や政治倫理の問題を扱った彼女の複数のフランス語の著作が英訳される過程で、それらが中世末期イングランドの俗語文化の発達や世俗的精神の成熟に少なからず貢献したことが証明された。 当初、本年度の研究成果については、平成22年3月上旬に米国西海岸で開催された2010 Medieval Association of the Pacific Conferenceで発表する予定であったが、新型インフルエンザの流行により、入学試験で追試が実施される可能性があったため、学会への参加を断念せざるを得なかった。
|