研究課題/領域番号 |
19520199
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塚本 昌則 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (90242081)
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研究分担者 |
月村 辰雄 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50143342)
中地 義和 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50188942)
鈴木 雅生 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教 (30431878)
野崎 歓 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 准教授 (60218310)
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キーワード | 時間意識 / 20世紀文学 / 回帰する時間 / 直線的時間 / ユートピア |
研究概要 |
20世紀文学はきわめて多様な文芸思潮を生みだしたが、その全体の俯瞰を可能とするような作品美学を見出すことは可能だろうか?本研究はこの疑問を、多彩な時間意識の表現、とりわけ年代順の時間の流れとは異なる、さまざまな時間意識の表現という視点から分析しようとするものである。 昨年度の研究を通して、モダニズムを読み解く一つの鍵となる〈前衛〉〈後衛〉という文芸思潮について、幾つかの重要な知見を得ることができた。とりわけ、これまで〈前衛〉と位置づけられていたシュルレアリスム、ヌーヴォー・ロマン、ヌーヴェル・クリティックなど、時代の先陣を切っているようにみえた運動が、実際には絶え間ない革新の美学ではなく、ある古い価値観を蘇生させる試みという側面を持っていることが明らかになった。その価値観を究明するために、「独創性」「危機」「瞬間」「記憶」「精神」等の概念をさらに検討する必要が明らかとなった。 例えば「独創性」は18世紀後半以降、近代文学において重要な価値と見なされるようになったが、シュルレアリスムにおいてはほとんど重視されていない。むしろ作品は独創的でなければならないという近代固有の思い込みを破壊することによって、この運動は幅広い影響力を行使したと考えられる。またヌーヴォー・ロマンには、伝統的な小説形式の破壊と刷新という側面が確実にあるが、内容においては「危機」「瞬間」「記憶」など、文学において伝統的に追求されてきた問題が大きく扱われている。これらの視点から見れば、個々の作家が、それ以前には存在しない独創的な作品を創りつづけるという強迫観念のうちにいたようにみえる20世紀文学は、実際には「神話」「歴史」「哲学」など、18世紀以前に重要だった価値観を蘇生させる試みだったのではないか。昨年度の研究を通して得られたこの仮説を、本年度の研究のなかでより具体的な作品研究を通して実証していきたい。
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