本年度は本研究の初年度として研究環境を整備し、18〜19世紀初頭の書簡形式の文学およびその文化背景に関する情報を得るために関連文献の調査、収集を行った。さらに次のような作業を行った。 1.フョードル・エミン(1735?〜70)の書簡体小説『エルネストとドラーヴラの手紙』(1766)及びこの作品が誕生した経緯について考察した。エミンが大きな影響を受けたと考えられるルソー『新エロイーズ』との類似性、及びエミンの独自性についての分析を行い、この作業を通してエミンがこの作品において実現しようとした「書簡体小説」の像を理解した。 2.『エルネストとドラーヴラの手紙』発表当時のロシアの読者層の知的関心について調査した。一般読者からは熱い歓迎、アカデミー会員の間では賛否両論という異なった反応が見られ、当時のロシアに文学テクストについての多様な嗜好と認識が存在していた事情が明らかになった。 3.7月初めにフランスで開催された国際18世紀学会に出席して18世紀ロシアに関する発表を行い、関係諸分野の専門家と情報および意見交換を行った。 4.7月半ばから8月にかけてヨーロッパで、ロシアにおいて書簡体小説が流行した社会背景、特にロシアにおける18世紀ヨーロッパ文化の受容について調査した。 上記のかなりのものはまだ作業の半ばであり、次年度以降に成果を発表する予定である。
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