本年度は昨年度の文献調査を継続して行い、また最終年度として分析結果を纏め、研究成果を発表した。昨年度に引き続き、18世紀後半から19世紀初頭の書簡形式の文学テクストを分析の対象とし、併せてロシア社会における「手紙」文化を考察した。具体的には次のような作業を行った。 1.「日本18世紀ロシア研究会年報」第6号に、ロシア最初の書簡体小説、フョードル・エミンの『エルネストとドラーヴラの手紙』(1766)誕生の経緯とロシアにおける書簡テクストの歴史についての論文を発表した。これは前年度、第6回日本18世紀ロシア研究会に於いて行った口頭発表を発展させたものである。 2.18世紀末から19世紀初頭のロシア・センチメンタリズムの文学テクストに対して、S.リチャードソンの書簡体小説『パミラ』が与えた影響を考察した。主人公の形象、モチーフ、形式、文体等の比較を行った。 3.エミンの『エルネストとドラーヴラの手紙』から、カラムジン、プーシキンの文学を経てドストエフスキーの初期作品にいたる「手紙の方法」を概観し、この方法がロシア近代文学の成立に果たした役割について考察した。 4.2010年に開催された第8回日本18世紀ロシア研究会に於いて関連分野の研究者と情報、意見の交換を行った。また2011年12月に台湾で行われる国際学会では、招待講演者として本研究の成果の一部を紹介する予定である。
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