平成20年度は、本研究全体の計画として掲げた (1)主に18世紀以降の思想史、美術理論史における「視覚」と「触覚」という二項対立的な知覚の把握の系譜の整理 (2)ベンヤミンの『複製技術時代の芸術作品』における「視覚」・「触覚」概念と、(1)の思想史的系譜との関係の考察 (3)人文的インターフェース論の構築:「視覚」と「触覚」をめぐる言説(ベンヤミン、マクルーハンを含む)を技術メディア(とりわけハイパーテクスト)の理論と関係づける という三つの研究課題のうち、とりわけ(3)に集中的に取り組んだ((1)および(2)については、最初の2年間のうちに、当初の研究目標を達成している)。その成果の一部は、論文「ベンヤミンはハイパーテクストの夢を見るかあるいは、ハイパーテクストの触角性」というかたちでまとめた。(ちなみに昨年度中に執筆した論文「ベンヤミンのシュルレアリスム」は出版社の都合でまだ出版されていない。)この論文では、思想史における「視覚」と「触角」という対概念のうちに、メディア理論のコンテクストでの「ハイパーテクスト」を位置づけることによって、ハイパーテクストというメディアの本質的志向をひとつの思考モデルとして描きだし、それによってこの概念の拡張を試みるものである。今回の研究では、当初想定していた、「ポスト・ヒューマン」「サイボーグ」などの言説の場にあまり踏み込むことができなかったが、それは以降の研究の課題としたい。
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