本研究はまず、近代西欧の思想史のなかで形成された、「視覚」と「触覚」という対概念を特徴とする知覚の言説の展開を明らかにした。「視覚」は基本的に理性的認識にかかわるのに対して、「触覚」は全感覚による世界の原初的な経験につながる。ベンヤミンやマクルーハンといった20世紀のメディア思想家にとって、「触覚」はさらに、新たな技術メディアによって生み出される仮想的感覚性とも結びついている。この考察を現代のハイパーテクストの理念モデルに敷衍するならば、広義の「ハイパーテクスト」は、われわれの文化のなかで、「触覚」をめぐる言説の延長上に位置づけることができる。
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