本研究の目的は、アメリカ演劇におけるリベラリズムと民主主義の概念の形成とその表象を、冷戦を経て20世紀末に顕在化したグローバリゼーションの問題と文化・表象芸術の関わりにおいて、その固有の問題と相互の関り合いを考察し、20世紀の歴史的文脈の中に位置づけ、今世紀の展開を標榜するための学術的指標を提示することにある。本年度も引き続き冷戦期の文化政策についての文献を中心に資料を収集・通読したほか、19世紀以降のアメリカにおいて性の政治学や権力の力学が資本主義と結びつけられて構成・布置される過程およびリベラリズムという概念の形成過程を確認しつつ、現在のグローバル資本主義下におけるリベラリズムの諸言説を演劇という枠組みにおいて検証する作業を継続した。また、平成21年度に中断していた冷戦終結以降、2001年同時多発テロ、イラク戦争以降の演劇およびパフォーマンスを検証する作業を再開し、基礎研究の一環としてスピヴァク近著の共同翻訳も開始した。また、資料を収集のため短期間渡米し、その際、研究交流のあるニューヨーク大学のマーティン教授と面談し、アドヴァイスを受けることもできた。この過程で、ネオリベラリズムと冷戦後文化の諸関係を捉えなおすという問題意識を得て、演劇実践および文化政策の両面からこれを検討する作業に着手。演劇実践研究の最終年度を意識し、これまでの成果を言語化する作業を進め、ジェンダーパフォーマンスに関する考察をまとめた。
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