本研究は、イスラム系児童英語文学について調査し、イギリスにおけるイスラム系児童英語文学の現状を把握するとともに、作品内容を分析して、キリスト教系児童文学と比較する事によって、イスラム系児童文学の特徴を明らかにする事である。 平成20年度は、昨年度購入したイスラム児童文学作品の内容分析を中心に行った。また、実地調査としては、エディンバラ・ブックフェスティバルで取り上げられた異文化背景を持つ児童作品を調査し、共同研究としては伝統的なキリスト教的生活を持続しながら現代社会と強制しているアメリカ・アーミッシュ・コミュニティーの児童文学の内容分析をアーミッシュ研究者と行う打ち合わせや資料の交換を行った。 作品の内容分析としては、対象年齢11歳までのイスラム系創作文学30点と、コーランの中に現れる物語やイスラム教の歴史上重要な人物の伝記20点の計50点について、登場人物、場面設定、扱われているテーマや項目(学校でのイジメなど非イスラム社会との関係、世俗的満足と精神的満足の間の葛藤、近親の死、自然との共生、友人関係、信仰や宗教行事の意味や意義など)、作品の長さ、作品の構成や展開などの分析項目について、精読しながら整理した。また、キリスト教児童文学と共通して見られるテーマ・項目や、一方にのみ頻繁に見られるテーマ・項目について、共同研究を可能にするための打ち合わせを行い、平成21年度の研究指針を決定した。 イスラム系児童文学の研究は、この基盤研究を申請した時点ではあまり行われていなかったが、平成20年のエディンバラ・ブックフェスティバルでは異文化背景を持つ児童文学が少しずつ取り上げ始めていた。平成21年度、22年度に開催される大きな児童文学の国際学会(国際児童文学学会、IBBY児童文学学会)においては、非西洋文化やマイノリティー児童文学がメインテーマとされるなど、この分野は研究テーマとして確立してきており、今後本研究の成果を発表してこの研究分野の発展に貢献していく事の意義は大きい。
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