平成21年度(および繰越しによる22年度)は、交付最終年度にあたるため、イスラム児童文学を他の宗教的児童文学と比較することによって、平成20年度までイスラム教社会を内から、または非イスラム教社会との対比の中でのみ捉えてきたイスラム児童文学の研究をより大きな枠組みの中で研究分析した。具体的には、アメリカのアーミッシュの人々の家庭雑誌Family Lifeの中の子供用ページに掲載されている児童文学300編との比較研究を行った。 アーミッシュの人々は、アメリカの一般的な社会の中で暮らしながら、独自の生活様式を持っている事、家庭の中で主に話されている言葉が英語ではないこと、宗教が生活の中心となった世界観を持っている事など、イギリスに住みながら独自の社会を形成しているイスラム教イギリス人と似た面を持っている。平成22・23年には、日本各地でアーミッシュ文化展が開催され、アメリカからアーミッシュの専門家が日本に来るなど、この研究を深めるのによい年であった。アーミッシュ研究を行っている岐阜大学杉原教授・大藪教授の助言も得て、アーミッシュ児童文学の分析方法を決定した。 イスラム児童文学とアーミッシュ児童文学の比較研究成果は、国際中東学会(WOCMES2010)、日本英文学会中部支部大会で発表し、特にWOCMES2010では、アメリカのイスラム研究者と将来的な共同研究への足がかりもつけることができ、有意義であった。 イスラム児童文学とアーミッシュ児童文学では、宗教を中心とした世界観(宗教活動の頻、宗教用語や神の存在への言及)があり、家族との強いかかわりや家事に関する描写が多いなどの類似点があるが、アーミッシュ児童文学では逸脱や宗教からの一時的な離脱が頻繁に取り上げられているのに対して、イスラム児童文学では逸脱よりも非イスラム社会との葛藤が主な主題となっているなどの相違点がある事が分かった。これらの成果は、詳細な分析と共に『言語文化論叢』の2編の論文として発表した。
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