伝説が、それを生み出した文化にとってきわめて重要なものであることは当然であるが、近代欧米を代表する芸術家リヒャルト・ヴァーグナーの作品も多く伝説に基づいているのは周知の事実である。しかし一方、精神分析やアドルノらの批判的批評を受け継ぎ、ヴァーグナーの芸術は伝説を批判的に分析し解体しようとするものだとする解釈が、現代ではどちらかと言うと主流となっている。 そういう中で、両者の統合、すなわち、伝説の単なる継承でもなければ解体でもなく、近代において伝説の何が解体され、何が受け継がれ、そして何が付け加えられたのかという変容を明らかにすることが本研究の目的である。
|