研究概要 |
本年度はまずカッシーラーの『象徴形式の哲学』を主としてゲーテとの関係において考察し、カッシーラーのいう「象徴形式」がゲーテの「象徴」概念に由来することを明らかにした。そこで立てたのは、「象徴形式」が西欧的な思考法とアジア的な思考法の双方を統合しうる概念であるというテーゼであり、このテーゼは、フィンランドのタンペレで開かれた「異文化交流国際独文学会」の大会において、42カ国の参加者と話し合いながら、さらに深められた。 本研究によって、こうしたゲーテの半ば西欧的にして半ばアジア的な思考法そのものに近代批判や脱近代へといたる思考の萌芽が秘められていることが浮かび上がったであろう。 この見地をさらに深めるために、カッシーラーの『象徴形式の哲学』や『個と宇宙』や『英国のプラトン・ルネサンス』や『自由と形式』などで展開されているルネサンス論やゲーテ論などを批判的に検討しながら、ゲーテがルネサンス以来のHumanismus(人文主義)の伝統を継承しており、ゲーテのニュートン科学批判、産業革命批判、近代批判がこのHumanismusの伝統に由来することを解明することに努めた。その際、東京での科学論の専門家との会合が大変役に立った。 若きゲーテは一時、錬金術の研究に夢中になった。彼がその頃、パラケルズスの著作からどの程度の影響を受けたかを、G.F. HartlaubのDer Stein der Weisen. Wesen und Bildwelt der Alchemie.やW.-E. PeuckertのLeben, Kuenste und Meinungen des viel beschriebenen Theophrastus Paracelsus von Hohenheimらの著作や論文に即して調べた。さらに『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』における「美しき魂の告白」や、『詩と真実』における錬金術研究のくだりがどの程度、「真実」であり、どの程度「詩」であったのかを検討した。
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